この1〜2年、ベトナムは政治的に大きな転換期を迎えています。
最も象徴的な動きが、共産党の最高指導部「トップ4」(書記長、国家主席、首相、国会議長)の相次ぐ交代と、それに伴う反汚職運動の加速です。
この動きの中心にいたのが、2024年7月に逝去したグエン・フー・チョン前書記長でした。
彼が主導した「炎の炉(Đốt lò)」キャンペーンは、党幹部や政府高官の汚職を徹底的に追及し、透明性のある行政改革を進めることを目的としていました。
チョン氏は「腐敗は国家存亡の危機である」と明言し、一切の妥協を許さない姿勢で汚職撲滅に取り組みました。
このキャンペーンにより、かつては盤石と見なされていた高官たちが次々と失脚し、その影響は最高指導部にまで及んでいます。
2023年には国家主席が、2024年には国会議長がそれぞれ汚職を理由に辞任。
さらに、長年にわたり反汚職運動を牽引してきたチョン書記長自身の逝去により、ベトナム政治は新たな局面に突入したのです。
後任の書記長には、前国家主席であり、かつて公安相として「炎の炉」キャンペーンの実務を担ってきたトー・ラム氏が選出されました。
この人事は、反汚職路線の継続を強く示唆するものです。
また、この交代により、トップ4は完全に新しい顔ぶれとなり、チョン前書記長の遺志を引き継ぐかたちで新体制が本格的に始動しました。
新たな指導部に課せられた最大の課題は、チョン氏が築いた反汚職の流れを維持しつつ、経済成長と社会の安定をどう両立させるか、という点にあるでしょう。
汚職撲滅は、外国からの投資促進や透明な社会の構築に不可欠ですが、その一方で、政府の機能不全を招くリスクもはらんでいます。
チョン書記長の死という大きな節目を越え、ベトナムは今、次のステージへと進もうとしています。
新たな指導部が、彼の遺志をどのように受け継ぎ、国をどの方向へ導いていくのか。
この強力な反汚職の流れが、ベトナムの未来をより良いものに変える原動力となるのか ─ その答えが見えてくるのは、これからの数年の歩みにかかっています。


