コロナ前のことですが、ベトナムでひとつの動画が拡散し、大きな議論を呼びました。
内容は、日本で働くベトナム人技能実習生が日本人社員から失敗を厳しく叱責され、そのやりとりの末に暴行に及んでしまったというものでした。
しかし、よく観察してみると、最初に暴行を働いたのは当事者本人ではなく、その場にいた別のベトナム人。
恐らく通訳役だった人物が怒りに火がつき、手を出してしまった、そしてそれに連鎖して自分自身もタガが外れてしまった…という顛末のようです。
現場はおそらく社員寮の食堂で、酒も少々入っていた様子でした。
もちろん、これは特殊な一件であり、これをもってベトナム人全体を語ることはできません。
ただ、私自身がベトナムで20年以上生活して感じるのは、こうした“感情の爆発”には、ある種の共通点があるということです。
その「一線」とは、人前で恥をかかされること。
ベトナム人は「メンツ(顔を保つこと)」を非常に大切にします。
もちろん日本人にもそれはありますが、ベトナムではより強く意識されていると感じます。
特に、周囲の目がある場で叱責されたり、プライドを傷つけられたりすると、内に秘めた感情が一気に噴き出してしまう傾向があるのです。
ベトナムでは、日常の中で多少の口論や衝突があっても、表面上は笑顔で交わすことが多く、穏やかな印象を受けるかもしれません。
しかし、だからこそ、限界を超えたときの反応は激しい。
日本人視点では「そこまで怒ること?」と思うような瞬間に、突然感情のダムが決壊することがあるのです。
この背景には、儒教的な価値観が根付く文化や、家族や共同体の中での「顔」を重視する社会構造があるとも言われています。
異文化の中で働く外国人がストレスを抱えるのは当然のことですが、そのストレスが爆発しないようにするためには、私たち受け入れ側も相手の「一線」を理解することが大切です。
面前での叱責を避ける、必要な指導であっても、タイミングと場所をわきまえること…。
これは、単にトラブルを避けるためだけではなく、互いの信頼を築いていくための第一歩だと私は考えています。


