ベトナム文化の根底には、何よりも深い家族の絆があります。
親は子どもに惜しみない愛情を注ぎ、子どももまた家族を深く敬愛します。
この家族愛の深さは、私たち日本人の想像をはるかに超えるものがあります。
しかし、この強すぎる絆が、時に若者たちの自立を阻む要因となることも少なくありません。
特に若年層のベトナム人男性に多く見られるのが、「親離れ」や「子離れ」がうまくできていないケースです。
例えば、成人していても、日々のちょっとしたことから人生の重要な決断まで、すべてを実家の親に相談し、自分で判断することを極端に避ける傾向があります。
これは、幼少期から親に甘やかされ、必要以上に守られて育った結果と考えることもできます。
日本での生活が突きつける「自立」の壁
このような家族への強い依存は、技能実習生として日本で働くベトナム人にとって、時に大きな壁となります。
見知らぬ土地での仕事、異文化での生活は、言葉の壁や慣れない習慣など、数多くの課題や困難に直面する連続です。
そのたびに親の判断を仰いでいては、せっかくの成長のチャンスを逃してしまう可能性があります。
さらに、驚くべきことに、親が「寂しい」という理由で、日本で働いている息子をベトナムに呼び戻してしまうケースも実際に存在します。
せっかく日本で技術を学び、将来のために頑張ろうとしている若者が、親の深い愛情ゆえにその機会を失ってしまうのは、何とも複雑な気持ちになります。
私自身の話で恐縮ですが、我が家でも、子どもの「自立」を重んじる私と、「ひたすら愛情」を注ぐベトナム人の妻との間で、子育ての方針をめぐってしばしば意見の衝突があります。
これは、決してどちらかが間違っているという話ではなく、文化的な価値観の違いが根底にあるからこそ起こる摩擦だと感じています。
もちろん、家族の存在が心の支えとなることは、人種を問わず誰もが経験する素晴らしいことです。
しかし、技能実習生として日本で過ごす時間は、「自分の人生に責任を持つ力」を養う貴重な機会でもあります。
この経験を通じて得られる自立心は、彼ら・彼女らのこれからの人生において、かけがえのない財産となるはずです。
彼らが日本で得た経験が、ベトナムに帰国した後も、彼ら自身の、そして家族の未来を豊かにする力となることを心から願っています。


