少し前の話ですが、コロナ禍のさなか、世界各国が未曾有の混乱に直面する中で、ベトナムの対応は異彩を放っていました。
ロックダウンの厳しさは、日本の比ではありません。
軍隊まで動員して街は完全に封鎖され、移動は極端に制限されました。
大学の寮は空にされ、高校の体育館とともに即席の「野戦病院」へと姿を変え、医師はもちろん、医大講師や医学生までが最前線に駆り出される徹底ぶり。
感染拡大を止めるという国家の意志は、誰の目にも明らかでした。
しかし、それ以上に驚かされたのは、「変わり身の速さ」でした。
オミクロン株の出現により、コロナウイルスの毒性が弱まると、あれほどまでに厳格だった規制が、あきれるほど一気に解除されたのです。
外出禁止、隔離、移動制限など、まるで存在しなかったかのように次々と撤廃され、社会は一気に通常運転に戻っていきました。
私自身、ロックダウンの最盛期にやむなくベトナムを離れた経験があります。
その当時の町の様子といえば、まさにゴーストタウン。
人気(ひとけ)はなく、店も閉まり、車も人もいない。
タンソンニャット国際空港ですらほとんどの明かりが消え、両手で数えられるくらいの人しかおらず、まさに沈黙に支配された都市でした。
しかし、その数ヶ月後にベトナムへ戻ってみると、そこにはまったく別の光景が広がっていました。
バイクのクラクションが鳴り響き、屋台には人が溢れ、まるで何事もなかったかのような賑やかな日常が戻っていたのです。
この変化を「無計画」と見るか「柔軟」と見るかは、立場によって異なるでしょう。
ただ一つ確かなのは、ベトナム人の適応力と行動の速さです。
もちろん人にもよりますが、良くも悪くも、変化を恐れない。
その柔軟さと切り替えの早さには、感心させられるばかりです。
ベトナムで生活や仕事をしていると、こうした「変わり身の速さ」に度々驚かされます。
ときに混乱を生み、ときに躍動をもたらすこの国民性。
そこには、停滞を嫌い、常に前へ進もうとする力強さがあるように思えます。