ベトナムでの生活を始めて、気づけば四半世紀もの月日が流れていました。
初めてこの地に降り立った日のことは、今でも鮮明に覚えています。
周囲の喧騒、飛び交う理解不能な言葉、そして何よりも、言葉が通じないことへの絶望感。
当時のベトナムはインターネットも普及しておらず、海外での一人暮らしは、毎日のように不安に苛まれていました。

日本へ逃げ帰ろうかと考えたことも、一度や二度ではありません。
「もう二度とこんな経験はしたくない」――当時の苦い記憶は、今でも鮮烈な痛みとして残っています。

しかし、あの時の苦悩が、今の私にとって何物にも代えがたい財産となっていることを、今、強く実感しています。

言葉の壁、文化の違い、そして異国での孤独感。
あの頃の私が経験したそれらの感情は、日本で暮らすベトナム人の方々が抱える心細さ、不安、心配と、深く重なり合うものがあると感じています。
彼らが日本で直面する困難や葛藤を、私は自らの経験を通して理解することができます。
彼らの言葉にならない想いを、私は肌で感じ取ることができるのです。

この「理解」こそが、今の私の仕事における最大の強みとなっています。
かつては苦しいことばかりだった異文化での生活経験は、今は彼らのサポートをする上で不可欠な視点を与えてくれています。
彼らの抱える課題を彼らの目線で捉え、寄り添い、共に解決策を探すことができるのは、あの四半世紀の経験があってこそです。

過去の困難が、未来の誰かの助けとなる。
そう考えると、あの心細かった日々も、決して無駄ではなかったと心から思えます。
これからも、ベトナムでの経験を活かし、日本で頑張るベトナム人の方々の力になれるよう、日々精進していきたいと思っています。